展示風景 Exhibition View
<展示概要>
■展覧会名:トーキョー・ストリート・ビュー
■アーティスト:佐野魁, 鈴木悠生, 半田颯哉
■会期:2019年6月22日(土) - 7月6日(土)
■キュレーター:半田 颯哉
<展示解説>
2011年に東日本を襲った大災害は、都市の在り方を考え直すには十分すぎるきっかけだった。
行政機関や大手企業の本社が東京に集中していることによって、行政や経済が麻痺したこと。原発停止と計画停電。当時高校生で西日本にいた私にとっても、それは差し迫った現実として感じられた。
しかし、その後8年が経過すると、東京はその反省とは正反対の方向に進んだように思える。地方の過疎化が進むにつれて人々はますます都市部に進出してくるし、オリンピックは東京の建築を更新して再強化していく。きっとまだしばらくは変化の駆け足を止めない街の光景(=ストリート・ビュー)に、アーティストたちはめいめいのアプローチを向ける。
佐野魁の作品は都市という単位で街を捉える。
《まなざす風景》は壁に開いた穴から灰に覆われた都市を覗き込む。その風景は暗闇の中の都市であり、具体的などこかではなく抽象化された都市概念としての風景である。
「粒子ドローイング」シリーズは佐野が木炭デッサンによって捉えたやはり暗闇の都市がコンクリート板に裏打ちされている。紙の上に乗った木炭粒子による繊細なデッサンと、量感の強いコンクリートが一つの作品として調和しており、明日にも変わるかも知れない都市の景色の不安定さと、確かにそこにある物質としての街並みが共存する東京の姿と重なる。
鈴木悠生の作品は建築という単位で街を捉える。鈴木は建築を学んだ写真家であり、丹下健三、前川國男を始めとしたモダニズム以降の著名建築家たちの手による建築を被写体とする。
「Architecture」シリーズにて大判出力されている建築は一部分のみがフレーミングされており、建築に対して造詣の深い鈴木が建造物に向ける視点を追体験することが出来る。また、不安定にぼやけるように現像された屋根の支柱は、次代の街の発展のためいずれは取り壊しとなる「建築」という創作物の最期までをも思わせる。
半田颯哉の作品は物という単位で街を捉える。
「落とし物シリーズ」は、作者が落とし物を発見した時、手元のカメラでそれを撮影するというコンセプチュアルアート作品である。落とし物とごみの間を分けるのは「それを手放したくなかったかどうか」という所有の意志の有無であり、半田の撮影した落とし物の写真は街の中を行く人間の営みを背後に感じさせる。また、半田は「# 落とし物シリーズ」のタグで画像をSNSにアップロードし続けており、常に変化する街の姿の瞬間瞬間がアーカイブされ続ける、ポストインターネット時代の状況が反映されている作品だとも言える。
発展による開発と、災害による破壊。変化が常に付きまとう不安定なこの都市を我々はどのように記憶すればよいのか。
本展の体験がその問いにヒントを与え、街の見方をより豊かなものにできると幸いである。
キュレーター 半田 颯哉